久しぶりの更新です。
なんだかんだベイトリールのカスタムクラッチレバーを作り始めて10年、ここにきて全く新しい概念のクラッチが完成しました。
そのコンセプトと制作過程をご紹介させてください。
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パーミングクラッチとは
こんにちは、かけづかです。
自分のSNSを普段チェックされてる方は既にご存知かと思いますが、20メタニウム用パーミングクラッチが完成しました。
今年の後半から煮詰めてきたパーミングクラッチですが、やっと納得の形状になったので量産に入ります‼️
名前の通りパーミングしたまま切る事ができるクラッチです。これについては久しぶりにブログでじっくり語らせて頂けたらと思ってます😊… pic.twitter.com/4Fj8SXw0TY
— かけづか: クラッチ屋KDW代表 (@kakedukaSS) December 6, 2024
このクラッチの基本コンセプトは
『スリーフィンガーでロッドを握った時にクラッチを切りやすくする』
です。

初期段階のプロト品と純正を比べたところ。純正と比べてかなり高い。オフセットクラッチとは真逆のコンセプト。
ただスリーフィンガー(パーミングしたまま)でキャストをする人はじつは少数派(カケヅカ調べ)で、自分の肌感では多くの方がワンフィンガーかツーフィンガーでキャストしてると思います。
ではなぜパーミングクラッチを作ったのか。
それはもちろん、パーミングしたままキャストできた方が良い、というかパーミングしたままじゃないとキャストがままならない理由がありました。
オフセットクラッチとパーミングクラッチの使い分け
これまでKDWの代表作と言えばオフセットクラッチでした。
これはやはり名前の通りで、クラッチをオフセットさせてワンフィンガーやツーフィンガーで握った時にクラッチを切りやすくするためです。

自分は何十年もツーフィンガーでキャストをしてきたので、オフセットクラッチは本当に使いやすく、多くの方に支持して頂いてます。
我ながら良いものを作ったと自負しております(自画自賛)。
ただ、これまでもキャスト後にスリーフィンガーに持ち替えたりする場合がありました。
ちょっと重めのリグやルアーを扱う時です。
例えば10g以上のテキサスリグとかフルサイズのラバージグ、抵抗の大きい巻物など。
それらを扱う時には、キャスト後にスリーフィンガー(パーミング)に持ち替える感じです。
なのでオフセットクラッチで問題ありませんでした。
それが今年(2024年)、関東の人気レンタルボートフィールド・将監川に通うようになり、オフセットクラッチではどうにもやりにくい状況になってしまいました。

関東で猛威を振るっているナガエツルノゲイトウ。湖面を埋め尽くす勢いで増殖中。
ナガエツルノゲイトウ撃ち
琵琶湖では昔からポピュラーな釣り方だと思いますが、分厚いマットカバーをヘビーウエイトのテキサスリグやリーダーレスダウンショットで撃っていくパンチングという釣りがあります。
自分もここ十年ぐらいの間に、数回琵琶湖で友人の船に乗せてもらって体験した事がありました。

人気ブログDeeePSTREAMの運営者・KenDさんがまだ日本にいた時に乗せて頂き、琵琶湖でパンチング体験。この時の経験が今に活きてます。

この時は1オンス以上のシンカーを使った釣りに衝撃を受けた記憶。当時の関東ではまず使わないウエイトでした。
ただその釣り方を関東に持ち帰っても使えるシーンはなく、旅行先のアトラクション的な感覚で思い出の中にしまいこんでたんですよね。
それが近年、ここ2年ぐらいでしょうか、ナガエツルノゲイトウという水生植物が群生しはじめたのはご存知の方も多いと思います。
特に霞ヶ浦水系に多く見られ、自分がそれまで年に数回釣行する千葉県の将監川でも一気に増えて湖面を埋める勢いです。

湖面を多い尽くす将監川のナガエツルノゲイトウ。
「地球上で最悪の侵略的植物」とも言われており、地元の漁師さんなどこれの増殖に困ってる方がいるので、手放しで楽しんでばかりはいられない現状なのです。
ただそこら辺の事情についてはここでは触れないでおきます。個人レベルでどうこうできる問題ではないですし、釣りをするのを止めたらツルノゲイトウが減るというものでもないですし。
さて、その水性植物を攻略する方法の一つがパンチングで、元々カバー撃ち大好きな自分としては関東でこんな本格的なフリップ&パンチングが出来る事にワクワクが止まらない訳です。
今年は多くの週末を将監川で過ごした記憶です。久しぶりにハマってます。
本日の1本目。
スタートしてから30分以内だったのでファーストフィッシュ賞かと思ったらもっと早い人が何人もいた😂
でも幸先の良いスタート。
そしてこの後12時過ぎまで釣れず💦 pic.twitter.com/kPsAlCDfPj— かけづか: クラッチ屋KDW代表 (@kakedukaSS) October 26, 2024
そして専用タックルを詰めていく過程で、パーミングしたまま操作できるクラッチを作ってみたくなったんですよね。
ツーフィンガーとスリーフィンガー
前述したようにベイトタックルのキャスティングにおいてはトリガーに人差し指か中指を掛ける人が多数派だと思われます。
自分も普段はツーフィンガーですが、フリッピングにおいてはパーミングしたまま動作を行います。
引き出したラインの長さだけで動作を行うフリッピングではクラッチを操作する必要がありませんから。
それがツルノゲイトウなどのフローティングマット撃ちではピッチングも多用します。
そうなると7フィート超えH~XHアクションのロッドに1オンス以上のシンカーを扱うのはツーフィンガーではメチャクチャ手首に負担がかかります。というか自分には1日ロッドを振るのが無理なレベル。
参考までに自分の現在のツルノゲイトウ撃ちのタックルを紹介しますと、
メインロッド:WILD SIDE WSC760H-T
リール:SHIMANO20メタニウムXG
ライン:PE65ポンド
シンカー:1オンスバレットシンカー

7.6フィートのフリッピング専用ロッドにPEライン65ポンドを直結したテキサスリグで撃っていくのですが、キャストはもちろんフッキング時にも手首にかかる負担は相当なものです。これをワンフィンガーやツーフィンガーで行うのは通常の成人男性では無理なんじゃないかと思います。
なのでパーミングしたまま全ての動作を完了させたいのですが、ここでオフセットクラッチのネガな部分が浮き彫りになりました。
パーミングしたままでは物理的に切れません(汗。
困ったぞ、と。
オフセットクラッチを拒み続けた男
さて、ここでJB TOP50の黒田健史プロの事が頭に浮かびます。
個人的にも親交があり、黒田さんの主催するオンラインサロンにも参加してるのですが、KDWオフセットクラッチを「合わない」と言って拒絶し続けてる男です(笑。
使わない一番の理由はパーミングしたままクラッチが切れないというものでした。
黒田プロはほぼ全てのキャストをパーミングしたまま行うんですよね。
なので今回パーミングしたまま切れるクラッチを作ろうと思った時に、黒田さんの意見を聞いてみたいと思いました。
その後タイミング良く同船する機会があり、実物を見て触ってもらったんですよね。
今回パーミングクラッチを完成させるまでに、黒田さんには途中何度か貴重な意見や要望を頂きました。
最初、ほぼ完成に近いと思っていたプロト品を直接触ってもらったんですが、そこから大幅な形状変更を数度に渡って行う羽目に(涙目。
今回のクラッチについて黒田さんもご自身のブログで紹介してくれてますので、そちらもぜひ読んでみてください。
自分と違って長年パーミングしたままキャストをしてきた(もちろんバスプロとしての)経験値やノウハウは、その時点でのパーミングクラッチの問題点を即座に指摘し、結果大きく改善して思わぬ形へと変貌を遂げました。
その経緯について詳しく説明させて頂きます。
パーミングクラッチ制作に乗り出す
パーミングしたまま切れるクラッチという事で、単に位置を高くしただけでは意外と使いにくいです。
一応クラッチ制作では一家言あると自負してますので、「人間の手で切りやすいベイトリールのクラッチ形状はこう!」というものがあるんですよね。
クラッチ制作でまず大変なのはボディーに干渉しないようにする事で、叩き台を作ったらヤスリやルーターで干渉する箇所を削り落としていきます

最初期のパーミングクラッチ。指の腹で押すように全体的に丸っこくして面積を大きく設定。これはこれで普通に使えていた。
初期の頃はパーミングしたままクラッチが切れれば良いと思ってたのですが、どうも切り感が宜しくない。
クラッチ面の自分から見て右側(ハンドルの反対側)が邪魔で、上手くサミングできません。

画像丸印の部分が切る時に邪魔という事が判明。

クラッチ面右側を大きくカットする事でフィット感が向上しました。
さらにクラッチを切る時の指の動きとして、真っ直ぐ下に降ろすというよりも、クラッチレバーを後部にスライドさせる感覚だという事に気づきます。

指が当たる面が痛くないように切り欠き部を大きく面取り。

全体的にクラッチ面をリールボディーの大きさに整えて見た目もまあまあキレイになってきました。

デザイン製重視のピンホールを設けて、なんとなく完成間近かなーと(この時点では。
その後ピンホールに加えて大きな肉抜きをして、このまま製品化一直線(の予定だった)。

アルマイト処理をした最終プロト品、のはずだった…。
自分としてはかなり良いものが出来たという思いがありました。
これが完成した直後ぐらいに奇跡的なタイミングで黒田プロと同船する機会が訪れます。
本日の稲敷出張は後ろで黒田さんの話相手をするだけの簡単なお仕事です😊 pic.twitter.com/T1YordAqmS
— かけづか: クラッチ屋KDW代表 (@kakedukaSS) October 31, 2024
決して黒田プロ用として作り始めた訳ではありませんでしたが、「ぜひ触ってもらって意見を聞きたい‼️」という思いで新利根川に向かいます。
最終プロト詐欺w
黒田さんとは年に数回直接会う機会があったりします。そのうち一回ぐらいはプラのお供をしたりしてます。
この時は某雑誌の対決企画という事で、直前プラの新利根川にお邪魔しました。
黒田さんも自分(カケヅカ)のSNSでこのクラッチの事は知っていてくれて、自然と見てもらう流れになり、
第一声は普通に「これは良いかもしれない」でした。
そして色々話してるうちに、完成したら使ってくださいとお願いし、まさかの快諾を頂きました。
ただここからが大変だった(汗。
たしかにあの時「細かい部分はもう少し詰めていくつもりです」とは言いました。
それがまさかの大幅変更になるとは…。
いやSNSで完成間近とか言っちゃってるんだけど(滝汗。
修正の連続
黒「とにかくギリギリまで軽量化して欲しい」
欠「え?ここから更に軽量化ですか?」
黒「いや、無理ならしょうがないですけど…」
欠「や、やってみます」

はい、メチャクチャギリギリまで肉を削ぎ落としました。特に下の部分。固定ネジ部を穴の周りだけ残して大きくカット。やり過ぎか(笑。
これを浜松方面に送って数日後。黒田さんから電話が。
黒「握った感じがデカく感じるので、もう少しスリムにできません?」
欠「え?」
黒「いや、無理ならしょうがないですけど…」
欠「や、やってみます」

そんな訳でボディー左側のクラッチプレート部を残して大幅に肉を削ぎ落としました。じつはこの加工は結構苦労しました。

デザイン無しのタイプだとわかりやすいかもしれません。肉を削ぎすぎて固定のネジ穴が見えちゃってます。じつはこれもこのあと指摘されたりします(笑。
黒「このネジ穴見えてるのなんとかなりません?」
欠「え?」
黒「いや、無理ならしょうがないですけど…」
欠「や、やってみます」

ネジの下穴をドリルで開けると貫通してしまうので、先の平らなエンドミルで繰り広げ加工という手法を使って穴を開けました。本当にギリギリの加工です(苦笑。
この他にもクラッチ右側のエッジの面取りをガバっと大きくとって指当たりをさらに良くしてます。
これ以上ないと思ってたところからだいぶ変わりました(汗。
最終プロト完成‼️
そんな訳でやっと黒田さんも納得の仕上がりになり、今度こそ本当に最終プロトができあがりました。
というか、これが製品版です。

完成したパーミングクラッチ タイプR(レーシング)。

その重量は脅威?の2.78g。オフセットクラッチより軽くなってしまった(笑。
機能部品である以上、デザインは機能に準ずる訳ですが、それにしても危うい形状に仕上がったもんです。
指でクチャっと潰れてしまいそうに見えますが、これが結構強い。
おそらく普通の成人男性の握力では片手で変形させるのは無理でしょう。そのぐらいの強度はあります。
パーミングクラッチ 完成
そんな訳で無事?完成したパーミングクラッチ タイプR。
じつは肉抜きしてないレギュラータイプも並行して作ってます。
そっちは値段的に多少リーズナブルにするつもりです。使えれば良いという人向き。

肉抜きや飾り加工が全く無いプレーンなタイプ。加工時間はタイプRの約半分。シンプルな見た目は好みが別れそう。
昔DAIWAからグリッピングレフトというパーミングしたままクラッチボタンを押せるコンセプトのリールがありましたが、考え方はそれと似てます。
現在のコンパクトボディーになったリールこそ、再びそのコンセプトが活きてくるのかなと。
これまでKDWオフセットクラッチが合わないと感じていた方、キャスト後にスリーフィンガーに持ち替えてたという方にぜひ試して欲しい。
そしてやったことないけどスリーフィンガーキャストに興味がある人にもぜひ試して欲しいです。
自分はヘビーウエイトシンカーを使ったリグをロングロッドで使うためにこのパーミングクラッチを作りましたが、使い方は自由です。
この先この製品がユーザーさんの考え方に沿って一人歩きしてくれる事を願っております。
では。